見返りを求めて傍にいるのではありません。
愛して欲しくて傍にいるのでもありません。
廃墟の祈り
複雑に組み込まれたプログラムは、いつしか自己増殖を起こしてゆくのだという。
ひとつ、ひとつ。データを入力していけば、あたかも己で学習したかのように、柔軟な応答もするのだという。
そうして創り上げられた“人格”を以って稼動しているのが、わたしたち。
わたし、ではない。
わたしたち。
わたしたちは複数でひとつの脳を共有している。
複数の個体でひとつのプログラムを稼動させている。
どれかひとつが特別ではない。
わたしたちはあくまで平等である。
「何を考えている?」
この声の主が、わたしたちのマスター。
わたしたちは、あなたの為だけに存在します。
「アルベド様のことを」
「でく人形の分際で」
押し殺したような笑い。
髪をつかむ手は少し乱暴。
「オレの何を想うというんだ?」
「あなたのすべてを」
この。
狂気に満ちたひとを愛しいと思うことすらプログラムされたことなのだろうか?
アイ。
ひとに与えられた感情をコピーして、わたしたちの中に埋め込んであるのだろうか。
わたしたちの“感情”はアイを識別できるのだろうか。
「よく言う」
首に、指がからみつく。
触れられることが嬉しいと感じる。
喩え、この後にある結末が見えていたとしても。
「ガラクタのお前にも、他人を想う心があるとでもいうのか?」
喉をきつく締め上げられたせいで、音声出力は麻痺してしまった。
わたしが愛しいと思うのはあなただけです、アルベド様。
言いたいのに、声が出ない。
「なら、言ってみろよ」
間近に見た、見開かれた瞳のなかに、わたしの姿を見た。
あなたの目に、“わたし”は映っていますか?そうなら、ほんとうに嬉しいのに。
あなたがいつも見ているのは、わたしを透かして向こうにある誰か。
「オレを、愛している、と」
どうか、悲しまないで下さい。
わたしたちはあなたを愛しています。
わたしはあなたを愛しています。
創られたプログラムです。偽りにすぎないです。
それでも、あなたが誰より大事で、誰より愛しいと思うのです。
だから――――
「アァ、もう、応えられないか」
あなたの欲しいものが、わたしの愛ではなくても。
あなたが求めるのなら、わたしはなにもかもを捧げます。
わたしが壊れても。
また新しい“わたし”があなたの傍に参ります。
わたしを壊すことで。
少しでもあなたの心が休まるならば。
どうか。
その指でわたしを殺してください。
そう、今のように。
あなたの、指で・・・・・・
----怖ッ!ホラーだ!