理由なんざ初めからない。あるのは時間だけ。
理由はすべて後付だ。無為に過ごした時間への言訳だ。
存在理由
「アルベド、いい加減退け」
「やだね」
Jr.は不機嫌な顔で私室のソファに座っていた。
大きなソファだ。大人4人はゆうに座れるほどの長さのある、革張りの赤いソファ。
「重い」
「つれないことを言うなよ」
不機嫌の原因は、Jr.の膝の上に頭を乗せて悠々とソファに寝そべっている男。
「何が悲しくておまえに膝枕してやらなきゃなんねぇんだよ・・・・」
はぁ、と大きな溜息をひとつついて。Jr.は肘掛にもたれて片頬杖をついた。
むくれた顔はひどく子供じみて見えて。(現にJr.の外見は子供そのものなのだけれど)
アルベドは寝そべったまま、くつくつと笑った。
「くすぐって。笑うな」
「冷たいこと言うなよ、オニイチャン」
Jr.の不満そうな顔を見てよほど楽しいのか、アルベドは声を出して笑ってJr.の腹部に頬や顔をなすりつけるように
して甘えた。
正直なところ、Jr.はくすぐったくてむずがゆくて、すぐにでも膝の上に乗っている頭を投げ落としてやりたいと
思っていたのだが。アルベドの余りに満足そうな顔に毒気を抜かれ、ため息をひとつ落としただけで現状を保っていた。
「・・・・甘ったれ」
「まんざらでもないくせに」
「バッ!」
過剰反応が示すのは肯定に他ならない。
アルベドはまた、声を上げて笑って。挑発的な目でJr.を見上げた。
「本当はオレが可愛くて仕方ないんだろう?なぁ、言えよ。そうだ、って」
Jr.の手を取った。驚き見開かれた目を射るように見つめながら。
答えを。強要した。
「言えよ」
まるでキャンディを舐めるように、手首から親指の先に舌を這わす。
そしてそのまま指先を咥えて、きつく吸い上げた。わざといやらしく音を立てながら。
目線はずっと、Jr.に向けたままで。
「・・・かわいくねぇ」
羞恥に赤く染まっていく頬に充足を感じた。
外されない視線に満足を感じた。
自然、頬が緩んだ。
「ちっともかわいかねぇよ、おまえ」
けれど、Jr.は不満そうに膨れっ面で言って、アルベドの顔を無理矢理に横向かせた。
それから、ぐしゃぐしゃと乱暴に白い髪をかき回した。
「・・・・あぁ、いいな」
「何がだよ?」
「この感触」
うっとりしたような声にJr.は手を止めたけれど。
「もっと撫でろ」
今度は前より力を弱めて、髪の中に指を入れた。
アルベドが満足そうに息を吐くのが見てとれた。
「偉そうに」
悪態をついても、頭を撫でる手は離れずそのままで。
「・・・お前の手が、オレを撫でる為にだけあれば、いいのにな」
「あぁ?」
「なんてことはない、ただの口説き文句さ」
Jr.の空いている方の手に、Jr.のそれよりも大きな手が重なった。
指が絡む。
いやに情熱的。
まるで愛しい恋人にでも触れるような。
「オレのものになれよ」
「アホか」
「・・・・・・ふ、はははは、そう、それでこそルベドだ!」
指は離れない。
まるでそれ自身が意志を持った生き物のように、絡まりあって重なる。
「アホの戯言は置いといて。で、おまえいつ退くんだよ」
「さて、な」
頭をなでる手が、やけに優しい。絡まる指がやけに温かい。
言葉はアルベドを突き放し続けるけれど。
どちらが本音か、なんて。考える必要はない。
自分に都合の良い方を本音だと思っておけばいい。
アルベドはごろりと寝返りを打って、仰向けになるとJr.を見上げた。
「オレが退きたくなるまで、こうしてろ」
「テメェ・・・・」
Jr.はべち、とアルベドの額をはたいて「あと1時間だ。1時間経ったら蹴落としてやる」とむくれながら言った。
随分と(Jr.にしては)寛大なお言葉に、アルベドは重ねた手を引き寄せて感謝のキスをした。
Jr.はそれを鼻で笑った。
----ごろごろ、べたべた。でも甘くならないこの不思議。