楽園と呼ぶには血なまぐさかった。
監獄と呼ぶには平穏だった。
けれど。
あの頃、あの場所で過ごした日々は間違いなく幸福だった。



 秘密の花園




『ルベド!』

呼んで駆け寄って来たのは白の髪の少年だった。続いて、全くと言っていいほど同じ容姿の少年がゆっくりと 歩いてやってくる。違うのは髪の色だけだ。

『よう、おまえらどうしたんだ?』
『そろそろシュミレーションの時間だよ?』
『ルベドがいなければ始められない』

応えたのは赤毛の少年。3人の同じ姿をした少年。この場所に生活する少年たちはすべからく同じ容姿をしていて、 それが日常だったから、何一つ不自然だとは思わなかった。自分たちの生い立ちを考えたら当然だとも思う。
イレギュラーで髪の色を他の個体と違えた3人。彼らはこの閉塞した世界での異質だった。そして支配階級にいた。

『げ、もうそんな時間か?』
『もう、しっかりしてよぉ』

確固とした自我を持ち行動する彼らは、明らかに異質だったのだ。
寄り添い互いを必要としたのは必然のこと。

『そんなので大丈夫か、リーダー』
『おう、任せとけって』

戦闘用の兵器として生まれ、戦い続けることで生きてきた彼らだけれど。常に死が顎を開けて彼らを狙っていたけれど。
手を繋いで過ごしたこの日々は、確かに幸せだったのだ。

彼らだけの小さな箱庭。つくりつけの狭い世界。限られた自由と、がんじがらめの生。
それでも、幸せだった。

それは、彼らが笑いあっていられた最後の日の記憶。







「今でも思うよ。あの時、オレら3人そろってウ・ドゥに飲み込まれて消えちまってればどんなに良かったか、ってな」
―――お前にしては自虐的だなぁ、ルベド
「アルベド、おまえはそう思わないか?」

道を違えたのは、手を離してしまったからか?
互いを必要としなくなったからか?

―――思わないね。俺は今この瞬間が最高に幸せだ、イっちまいそうなくらいになァ
「相変わらず、イカれてやがんな」
―――お前は違うのか?

否。
今でも、互いを必要としている。互いを求めている。

「おまえの考えてることなんてこれっぽっちも分かりゃしねー。このサイコ野郎」
―――残念だ。俺はこんなにもお前を欲しているのに少しも伝わっていないとはねぇ
「言ってろ」

精神を繋げても伝わらない。伝わってこない、本当のこころ。

―――つれない。おまえは本当につれないよ、ルベド。
「・・・・・・オレだって・・・・」

思い出にすがって非情に徹せないのは甘さか?
過去の、あの楽園に戻りたいと願ってしまうのは愚かか?

「オレだって、おまえを・・・」
―――おっと、それ以上は言わなくて結構だ。俺は言葉なんざ求めちゃいない
「・・・・・・知ってら」

戻れぬのなら、いっそ新しく創ってしまおうか。
誰も立ち入ることの出来ぬ場所。幼かったあの頃のように、ただ互いだけを求めて暮らしてゆける場所を。
誰にも秘密の場所を。

―――俺が求めているのは殺し合いの時間だ!さぁ、戦おうじゃないか。何をためらうことがある?その為の生だ、その為の力だ!
「そんなにせっつかなくても戦ってやるさ!・・・・ギャーギャーうるせんだよ」

でも、アルベドはそんな場所を求めていない。
ただ戦いだけを。殺意と硝煙の香り、極限の緊張感がもたらす昂ぶりだけを求めている。
そう、ルベドがもたらすであろう、それだけを。

―――ようやく、ソノ気になってくれたのか?
「あぁ、決めた・・・・・オレはおまえを殺す」
―――イイねぇ、最高だ

互いを求める気持ちは、何も変わってはいないのだ。あの、笑いあっていた日から。
変わってしまったのはそのための手段。
狂おしいほどに欲する熱は加熱するばかり。あとは消滅の瞬間を待つばかり。

けれど、この場になってすらルベドは腰に下げた銃に弾を込めることが出来ずにいた。





------決戦前夜?EP2のラストってガイナン完全無視ですよね。二人の世界。白赤はオフィシャル公認(嘘)