天気のいい日に窓を開いて。
部屋の中から青空を見上げていると、無性に飛び降りたくなる。

2階にあるこの部屋からダイブなんてしようものなら、ただじゃすまないこと分かってる んだけど。









空を泳ぐ









「カカシ、あんたそこの窓から飛び降りれる?」
「何よ突然」
「できるの?できないの?」
「できるよ」
「あ、そ」


図々しくベッドの上を占領してごろごろしてる隣人に訊ねたら、読んでる本からちらりとも 目をそらさないままで返答があった。

床の上に寝転がっていた私はそれが面白くなくて(簡単にできると言われたことが。こっちを 向かないことが)彼が熱心に読んでいる本を取り上げて窓の外に投げた。


「あんな風に?飛べるんだ」
「・・・とべるよ」


いくらか不機嫌になったカカシはのっそりと起き上がると、「よいしょ」とか年寄りくさく 呟きながら窓枠に足を掛けて、ひょいと、そこから飛び降りた。


事も無げに。
あっさりと。
簡単そうに。


飛び出していった。
私は羨ましくて仕方がなくて。2階の窓から、道の上に落ちた本を拾っているカカシを見て いた。


「突然なにすんのよ」
「別に。むかついたから」
「どうしたの?機嫌悪いじゃない」
「・・・・別に、悪くないし」
(ただちょっと妬ましいだけ)


本についた土埃を払って、カカシがこちらを見上げる。


「・・・ねえ、カカシ」
「なに?」
「私も飛び降りたい、って言ったら、どうする?」
「飛べばいいじゃん」


本を脇に挟んで、彼は両手を広げた。


「受け止めてあげる」


にっこり笑った彼の顔は、いつものようにうさんくさかったけれど。
私は案外とその顔が嫌いじゃない。


「ほら、はやく」


急かす声に押されて、窓枠に足を掛ける。
下を見れば、高さに目が眩みそう。
だから、空を見た。





あの空に飛び込め。