ぼくからきみへ。贈る想いは笑っちゃうくらい純粋だったりします。
けどぼくは、きみにその想いを見せたくないんです。
それでも伝わっていて欲しいと願う、ぼくの傲慢さ。
きみは赦してくれるかなぁ?





 Hello,Hello






「あ、水色だ。なんでこんな早く帰ってくるわけ?」
「ぼくがぼくの家に帰ってきて文句言われるなんて、新鮮な体験だなぁ」



普段は誰もいない我が家。我が家と呼べるほど、ぼくはここに居付きはしてないんだけどね。
ぼくの家族は、少しばかりフクザツなジジョーってやつを抱えていて。
すでに家族って呼ぶのがおこがましい状態。
だから、帰りを迎えてくれる人はいないし、いてほしいとも思わない。



「おかえり」
「・・・・・ただいま」



ひさしぶりに使う言葉に違和感を感じながら、窓際で本を読んでいるおせっかいな幼馴染を見た。
誰もいないのが当たり前の部屋に、時々やってくるイレギュラー。それが
家まで帰るのが面倒だとか(ここはの学校から近いんだ) ここは静かで本を読むのにちょうどいいとか言って、失くした時の保険に預けたこの部屋の合鍵を活用してる。


「せっかく静かに読書ができると思ったのに」


でもね、それが言い訳だって事、ぼくはちゃんと気付いてるんだよ。
この幼馴染はうちのジジョーってやつを当事者よりもよく知ってて、その上捨て猫とか放っとけない性格だから。
捨てられたぼくの様子を、時々こうやって見に来る。
ほんと、おせっかいだよね。いらないお世話。


「ご心配なく。すぐに行くから」
「今日はどちらまで?」
「今日は誰のとこだったかなぁ?」


ぱたん、と。結構重そうな音を立てて本が閉じられた。
南向きの窓、その下にできてる陽だまりの中。そこだけ別の空間を切り貼りしたように見える。
普段はただ暗いだけのこの部屋。(ぼくが帰宅するのがいつも夜だってせいもあるけど)
なのに、今は眩しいくらいに明るくて、目の奥がなんだか痛いようなかんじ。


「刃傷沙汰には気をつけてね」
「そんなドジしないってば」
「あはは、調子にのって抜かるなよ?」


ぼくが引越しをしたのは、中学校に入る少し前。それでぼくとは途切れてしまうと思ってたのに。思春期を迎えて、違う学校へ行って、違う友達を作って、 接点なんてなくなって、離れていってしまうと思ったのに。
なぜかぼくらはこうして顔をつきあわせてる。
ぼくの悪行の類を全部暴露しても、ぼくの家族のドロドロした部分を見ても。 なぜかはずっと、呆れた顔をしながら、でも、近くにいる。


鬱陶しいよ。


迷惑だ。


ぼくが必要としてるのは側にいてくれるだけの癒しじゃなくって、もっと深くて簡単な慰め。
今日、これから逢うお姉さんがくれるだろう温もり。



だから、きみはいらないよ。



・・・・




・・・・・・・・・なんて、嘘。




でも、そう言い聞かせなきゃ、ぼくはきみの幼馴染を続けられないんだよね。
境界線をしっかり引いとかなきゃ、ぼくはきみを『女』として見ちゃうでしょう?
そうなったら、今度こそきみはぼくを見放すよね。
ぼくは、ひとりきりになってしまうよね。


なんだかんだ言っても大人になりきれてないぼくは、ひとりになるのが怖いんだ。


きみだけは、なくしたくない。
幼稚なぼくの本音。
ぼくの中で、きみより大事なものって数えるほどしかないんだ。


口先だけの『愛してる』なら、いくらだって言えるのに、どうしてきみにはこんな簡単なセリフが言えないんだろう。


「それじゃ、行ってきます」


白い光の中から見送ってくれるきみ。
言い馴れない言葉。きみがいるから、忘れないでいられる言葉。
ぼくがこの言葉を忘れちゃう前に、また逢いに来て。



「はいはい、行ってらっしゃい」



それだけで、ぼくは救われるから。


きみは知ってるかな?
ぼくは多分、きみのことが誰よりもすきなんだ。